聖地巡礼

オレが初めての一人旅で稚内に訪れたとき、
これからも旅人であろうと誓った地が抜海である。
日本最北端の無人駅である抜海駅は、幾多の年月を耐え抜いてきた
厳かな風格を持ち、尚且つ、北の大地を流離う旅人たちを
優しく迎えた気品に満ち溢れていた。
駅舎の素晴らしさもさることながら、澄み渡った青空、
海を越えて吹いてきた風の音、夕暮れ時に何処からとも無く
聞こえてくる牛の鳴き声…。
そのどれもが旅情をかき立て、長い長い旅の疲れを癒す。
そう、ここ抜海こそオレの聖地。
そして始まりの場所なのだ。
稚内へもう一度来た理由の一つが、ここを再訪する為だったのだ。
そんな思いを胸に、
オロロンラインから小道に入り、抜海駅がある場所へ走る。
しかし、そこに佇んでいたのは、オレの知る抜海駅ではなかった…。
あの幾年もの雪に耐え忍び
旅人を風雨から守ってきた壁は、
違う素材の物へと変わってしまっていた。
驚いて叫んでしまうほどショックではあったが、
抜海駅は抜海駅、取り壊されてしまうよりはよっぽどいい。

↑二年前

↑現在
月日は永遠の旅人、人が旅を通じて変わっていく様に、
その周りも変わっていく。変わらないものなど無い。
だから、その変わり行く間の一瞬を脳裏に刻み込むのだ。
永遠は人の中でこそ存在する。
影も長くなり始めた砂利のホームで、一人そんな事を嘯く。