道路によく落ちている軍手の美

道路によく落ちている軍手。
雨風に晒され何百回も車に轢かれた軍手は、深い憂いを秘めた灰色へと
変色して行き、その色合いは芸術的ですらある。
特に、晩秋の路上で何度も車に轢かれる、いわゆる仕込みをしてから
冬に降った雪の中で数ヶ月熟成させ、春の雪解けと共に完成する
軍手は、その製作過程の複雑さと自然が紡ぎだす絶妙な風合いから
「年越し物」と呼ばれ珍重されている。
軍手はその色合いだけではなく、薫りも楽しめるのである。
熟成が甘い物は無臭に近いが、数ヶ月から数年に渡って熟成された
それは、腐った水の臭い、アスファルトの臭い、タイヤゴムの臭い
を放つようになるのである。
なお、良い軍手の臭いの比率の黄金比として
腐った水:アスファルト:タイヤ:せつなさ=5:2:1:2 とされている。
これに犬の小便の臭いやミルメークの臭いが付いた物はさらに価値が
上がると言われており、人工的に臭いを付けた贋作が増加する要因となっている。