タキノ海を越える編

基本的に、山形が晴れていれば宮城は雨、宮城が晴れなら山形は雨、
となるのだが、トンネルを抜けても天候は陰鬱な物であった。
雨が降る前に仙台港に着きたいものだ。
仙台市街に入るまでの道は快適そのものであったが、
市街に入った途端に渋滞していた。
土曜の夕方はここまで混雑するものなのか。
荷物が多いのと、余計な危険に巻き込まれないためにすり抜けは控える。
途中で交通事故の現場を二回も見てしまった、初っ端から縁起が悪いぜ。
仙台港には予定よりだいぶ早く到着した、オレに遅刻なんて言葉は許されない。
さっさと手続きをすまし、ファンタを飲んでボーッとする。
少し頭がおかしそうなお兄さんが、自販機に50円玉を入れては出し入れては出しを
数十回繰り返していた。
人間色々な楽しみ方があるものだ。
荷物はバイクに括りつけたままなので、あまりバイクから離れる事は出来ない。
仕方が無いので、今日の宿となるフェリー「きそ」を眺める。
うーんとても立派な船だ。
フェリーを見て、狂ったお兄さんを見て、その辺で遊んでいる犬を見ているうちに、
車両積み込み30分前となった。
バイクを積み込み待ち車両駐車場に移動させる。
北へと向かうライダーは十数人いた、シーズンとしてはやや早めなので
こんなものだろう。
しかしほとんどがおっさんで、同年代の人はいなかった、なんか寂しい。
バイクもCB1300やらハーレーやらBMWやらが圧倒的に多い、
これは北海道に渡ってからも同じなのである。
みんな金持ってるなクソッ!
そんな感じで辺りを見渡していると、50〜60歳くらいのおじさんが声を掛けてきた。
「山形のどこから来たの?」
山形市からです、と答えると、「俺は寒河江から来たんだ。」とのこと。
へー どんなバイクで来たのかな?とおじさんの後ろを覗くと、
そこには荷物満載の自転車が堂々と停めてあった。
自転車じゃ高速は通れない、するとここまで来たルートはあそこしかない。
まさかあの交通量の関山峠を走ってきたのですか?と訪ねると
「トラックに轢かれないように走るのは大変だったよ。」と答えた。
何か知らないが何か凄いと思うのであった。
そのおじさんと談笑していると雨が降ってきた、積み込みまでは持たなかったか。
すると太平洋フェリーが気を利かせてくれたのかどうか知らないが、
「只今よりバイクの積み込みを開始します。」とアナウンス。
なんて良いフェリー会社なのでしょう。好きです太平洋フェリー
タラップを走行してフェリー内部に入り、ギアをローにして停車、
ナイロン製のでかい紐みたいなものでハンドルを固定される。
これなら大きく揺れても倒れる事は無さそうだ。
エレベーターに乗って客室スペースへ行く。
今回取ったのはB寝台、下から二番目のグレードだ。
一番下の二等客室が雑魚寝、+1000円ちょっとでカーテン仕切りの
プライベートスペースが買える事を考えるととても安い。
カーテンにとても上手い岡本太郎作「太陽の塔」のイタズラ描きがあったのは
未だに不思議ではあるのだが。
バイク用のジャケットを脱ぎ、荷物も置いてフェリー内を探索する。
見れば見るほど惚れ惚れするほど豪華だ。
綺麗なレストランに展望大浴場、シネマシアターにゲームセンター、
こりゃ一週間ぐらい乗ってても飽きなそうだね。
そしてトイレも素晴らしく、ウォシュレットに乾燥機能付きだ。
乾燥機能があるウォシュレットは珍しく、それだけに太平洋フェリー
意気込みが感じられる。
しかしこのトイレで後々恐ろしい目に遭うのだが、それは後日。

20:00になり「きそ」は定刻どおり出港した、本州とのしばしの別れだ。
腹も空いたので飯を食うことにする。
しかしバイキングだと1800円もして高い、なのでバーラウンジで
500円のカルボナーラを食べる事に。
予想通り量は少なく、結局売店で買ったスープを飲む事になる。
部屋に戻る途中、ゲームセンターに寄ってみる。
機動戦士ガンダムDX連邦VSジオンなんて今さら古すぎだぜ。
部屋に戻ってタオルを取り、大浴場に向かう。
そこまで広いわけでは無いが、ここがフェリーの中だと考えると十分な広さだ。
オレは使わないがサウナまで付いているし。
たまに船が揺れて、風呂の水面が傾くのが愉快であった。
風呂に入りすぎてややのぼせたので、甲板に出て見ることにする。
霧が出ていて何も見えない、海面も見えない、落ちたら絶対助からない。
甲板のこの柵の向こうは死の世界だ。
あまりに恐ろしいので部屋に戻って毛布に潜り込む。
今は霧に包まれた死の世界だが、明日には雲も無い晴れた海となり、
旅人たちが目指す大地が見えてくることだろう。