聖遷


豊富から数十キロ走り、小高い丘を越えると、民家やお店が現れる様になった。
ついに最果ての街に辿り着いたのだ。
初めての一人旅の場所として選んだ稚内
それからオレは旅に目覚め、根室、長崎、鹿児島と色々な街に行った。
いわばオレの旅の聖地である。
とりあえず日本最北端の稚内駅へ向かう。
前来たときと微妙に変化した気がしないでもないが、
またここに来られるとは感激である。
二年前と同じ構図で写真を撮ろうと思い、
二年前と同じデジカメをケースから出そうとしたとき、
向こう側から自転車に乗った少年が、
「あっ、バイクだかっこいい!」と近づいてきた。
小学校4〜6年生くらいの子だろうか?
将来はなかなか男前になりそうな顔をしている。
少年は「ねぇねぇ、これ買ったの?」と聞いてくる。
そりゃ盗んでは来ませんがな。
「乗ってみたい乗ってみたい」と言うので快諾する。
手を貸そうかと思ったが、少年はハンドルに掴まってよじ登り、
一人でバイクに跨る事ができた。
なかなか見所がある少年である。
「わーかっこいいなー いいなーバイクいいなー」と
250ccの小さなバイクを大きく羨ましがってくれる。
これまで自分のバイクを誉められた事などなかったので、
何か心の底から嬉しかった。
そうだ、ここで未来のバイク乗りを作り出しておかねばと思い、
『大きくなったら、バイクに乗ろうな。』と言っておいた。
「うん、バイク乗るよ!じゃあね!」と元気に返事し、少年は去っていった。
ライダーになるきっかけって、案外こういう少年時代の思い出なんだよなぁ。
オレがバイクに乗るきっかけも、小学一年生の頃に出合った
たぶんカワサキのツアラーバイクのお兄さんだったし。
もしも彼がライダーになったとしたら、オレはこれほど嬉しい事は無い。