黄金を抱いて飛べ

ホテルの部屋で着替えていると、
パンツにウンコが付いているのを発見した。
ウンコが付くのは実に十数年ぶりだ。
原因はフェリーのトイレである。
ウォシュレットを見ると条件反射で脱糞する本能があるオレは、
乾燥機能付きのウォシュレットを見て、有無を言わず脱糞した。
しかも、普通のウォシュレットには付いて居ない乾燥機能!
今使わずしていつ使う!
ウンコした後、シャワーで尻を洗ったところで全てのウンコが
消え去るわけでは無い。
通常ならその後、紙で拭いて止めをさすわけであるのだが、
この乾燥機能、ウンコを乾かしてしまうため拭いても紙にウンコが付かない。
よって「もう尻にウンコは付いていないのではないか?」
という誤った感覚に囚われる。
乾燥機能付きウォシュレット…。
脱糞し、洗浄し、しかも乾燥まで出来るという人類の叡智。
人類はこれによって排泄の全ての煩わしさから解放される筈だった。
しかしその夢は裏切られた。
これは機械文明による世界侵略の第一段階なのでは無いだろうか?
つまりオレは、ウンコが付いたまま朝日を見て感動し、
ウンコが付いたまま出会いと別れを経験し、
ウンコが付いたままカレーを食い、
ウンコが付いたまま消えた街に思いを馳せていた事になる。
「ウンコが付いたまま」という形容詞で全て台無しになるじゃないか。
しかしオレは負けない泣かない落ち込まない。
人生の全てが経験である。
どんな悲しい事辛い事かっこ悪い事になっても、
そこから何かを学び取れれば勝利である。
オレは「ウンコが付く」と言うかっこ悪い経験の中から、
とても多くのことを学んだ。
そしてこの経験は、これからのオレの人生を大きく支えていくだろう。
それは言うなれば黄金ほどの価値があるものとなる。
汚いウンコは今、黄金となった。
ウンコが付いたパンツはロビーのゴミ箱に捨てました。