絶え間ない世界へ

本屋で小学四年生を立ち読みし終え、
愛車のシボレー(の自転車)に跨った瞬間、
アナルに激痛が走り、「コンプラーイアンス!!!」とか叫びながら
2m50cmほど右斜めに飛び上がってもんどりうってしまった。
痔核持ちだという自覚を忘れてしまっていたようだ。
よくよく見てみると自転車のサドルが盗まれているではないか。
いや、もしかしたら、世界中に100万台の自転車があるとして、
自転車のサドルが99万9999個しか存在しないのかも知れない。
これはババ抜きのような物だ。
誰もが貧乏くじを押し付けあってるだけなのだ。
それがたまたまオレの所に巡ってきたのだ。
だとすれば、オレも隣の自転車のサドルを盗んで
自分の自転車にくっ付ければ良い。
現に皆がそうして来たからオレのサドルが無くなったのだ。
それならこれは運命なのだから、抗う必要性は無い。
だがしかし、オレは運命に屈しない。
これまで何千何万のサドルを巡って争ってきた世界があるとしても、
オレは決して屈しない!
運命の壁なんて、オレと従兄弟夫婦の信頼関係より薄いことを証明してやる!
…というわけで立ち乗りしながら帰る事にしたオレ。
座るときに痛いからサドルが必要になるワケで、
座らなければどうと言う事は無い!
軽やかにペダルを漕ぎながら五つの橋を渡り、
二月の丘を越えて街中を疾走する。
四丁目の交差点に差し掛かったとき、信号が赤に変わった。
車も来なかったので渡ってしまっても良かったのだが、
大人が法令順守をしなければ子供達の見本にならない。
ペダルから足を降ろし、普段通りに腰を下ろ…「ぼぎぇエエエエエエ!!!」
唐突に突き上げてきた悲しみの痛みにまたしてももんどりうつオレ、
そうだサドル無いことすっかり忘れてたよオレ。
運命とか偉そうな事は言ったが、サドルはサドル、運命は運命、
どちらかと言えば今はサドルの方が重要だわ。
そう思って辺りを見渡すと、道路の向こうにジャスコがあるではないか。
あそこでサドルの代わりになる物を探してみよう。
そこで選んだのがこの三つ、ライチ、エリンギ、ブロッコリーだ。
ライチは表面がザラついていて、ティンプル加工っぽくていい感じだ。
エリンギはなんかソフトで座り心地が良さそう。
ブロッコリーは安くて丈夫そうだった。
レジに持っていって会計を済ます。
アルバイトの女の子が「えーと…白いのは…カリフラワー… 緑のが…」
とか悩んでいたが、間違われては困る。
大体、カリフラワーは60円も高いじゃないか。
自転車に戻り、早速買った物を試してみる。
まずはライチ、穴にすっぽりはめて…、うわ、入って行っちゃった。
穴の直径よりライチの直径の方が小さかったか。
エリンギは太くて入らない!
最後の頼みの綱のカリフ… ブロッコリー!これはぴったりはまった。
ジャストフィットとは正にこの事。
まるで十数年前からここにはまってましたよ、
と言わんばかりの違和感の無さではないか。
赤い自転車、青い服着たオレ、緑のサドル、
光の三原色じゃないか。
おお運命とはなんて光に溢れている事か。
「3」とは調和の数字。
立法、行政、司法と、三つに権力を分離する事によって
抑制均衡が生み出されて調和する「3」
女神、鬼神、魔神と、闘いの神が三つ巴になって世界を破壊し尽す「3」
まさに3は奇跡の数字!
色の三原色は確か、グリーン、テールベルト、ビリジアンじゃなかったっけ。
運命と尻の痛みを打ち破ったオレは、無事に家に帰り着いたのであった。





二週間後、サドルを差し込む穴からライチの芽が生えてきた。